安倍首相は2月14日の衆院予算委員会で、さらなる法人税率の引き下げについて、高水準の収益を活用した企業の積極的な賃上げや設備投資が前提になる、との認識を示した。その上で企業に対し「今年の春闘で驚くぐらいの賃上げをやってほしい」と要請した。
ところが経済界は逆である。経団連の榊原会長は「年収ベースでの賃上げ」を呼び掛け、ベアアップには消極的だ。また中部経済連合会の豊田会長は「トランプ大統領の政策の影響がかなり大きい」として「賃上げには慎重な判断が求められる」と語るなど、経済界には「トランプ懸念」とも言えるベアに対する慎重論が大勢なのである。
ロイターの企業調査では今春の賃上げが2%以上と予想する企業はわずか16%で、昨年の調査の40%に比べ落ち込みが目立つのである。つまり安倍首相が笛吹けど踊らずで、企業はTPP離脱の「トランプ懸念」で賃上げに消極的なのである。
安倍政権の政策はちぐはぐだ。一方でデフレ対策で経済界に賃上げを要請しながら、他方で残業代ゼロ法案や裁量労働制の緩和など労働分野の規制緩和を進めている。
これは安倍首相が日本経済の「失われた20年」のデフレスパイラルの原因を全く理解していない事を示している。(安倍は日本経済がなぜ縮小再生産のサイクルにハマったかがまるで理解できていないのである。)
今日の先進諸国のデフレ経済は、いずれも冷戦後の強欲の資本主義に原因がある。日本の場合とりわけデフレが酷いのは、労組の家畜化・非正規化・能力主義の導入で「戦後労働改革」の利点を失ってしまった事に原因がある。日本の政策当局は「資本論」と「戦後労働改革が果たした経済的役割」について、もう一度学び直した方がいい。
小泉改革から安倍改革は規制緩和による安上がりの絶対的利潤の獲得策の推進であり、これでは生産性を高める設備投資による相対的利潤獲得には企業は進みにくいのである。
戦後労働改革の中心は労組の合法化、労働3権の容認、さらには不当労働行為を認めたことで強い労組を誘導することで、国民経済の高度成長を実現したのであった。資本主義の成長の視点からは理想的なことで、事実日本資本主義は急速に戦後復興を実現したのである。
しかし1990年代の能力主義の導入や労組の家畜化が、賃上げを抑制し、これに非正規化が賃下げを促し、日本経済全体の消費は縮小再生産を続けることとなった。これがデフレスパイラル、と呼ばれるものである。
個人経営者レベルの利益追求が、実は日本の国民経済を縮小再生産のサイクルへと導いたのである。これが安倍首相が3年連続で経済界に賃上げを要請しても、非正規化で賃下げが進み、経済全体では実質賃金は上がらず、したがって「失われた10年は」20年30年となるのは必然なのである。
重要なのは資本家階級と労働者階級は「対立面の統一の関係にあり」、戦後改革による強い労組の法律的枠組みが、日本経済の驚くべき急成長を実現したのである。
愚かにも日本の経斉界は階級政策を検討する「日経連」を解体し、規制緩和で個別資本家レベルの利潤の絶対的拡大策のみ追求した。(すなわち戦後労働改革の経済的役割を破壊した。)冷戦が資本主義の節度ある分配を保証したが、冷戦の終わりが今日の強欲の資本主義を招き、その結果が格差社会であり、その政治的表れがイギリスのEU離脱であり、トランプの保護貿易主義なのだ。
トランプ大統領の保護貿易政策が日本の経済界の賃上げ自粛を招くなら、日本経済の負のサイクルは加速し、世界資本主義は貿易の縮小で経済恐慌を招き、資本主義の「最後の鐘」を聞くことになるであろう。
つまりこの経済恐慌は資本家の強欲が招くものなのだ。その対策は経済界に賃上げを要請することではなく、強い労組を作る以外にないことを知るべきである。国民経済の拡大再生産には、家畜化した労組の野生化が絶対条件なのである。
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