職場でのパワーハラスメント防止策が来年春から大企業に義務付けられる、中小企業には2022年春をめどに対象が広げられる。そのためのパワハラ行為の「定義」とその具体例を盛り込んだ指針の「素案」が労働政策審議会に示され論議を呼んでいる。
厚労省が示したパワハラの定義は以下の3点である。
(1)優越的な関係を背景にした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超える
(3)労働者の就業環境が害される行為
この全てを満たしたらパワハラとなる、というもの。(1)の「優越的な関係」については素案では「抵抗又は拒絶できない、がい然性が高い関係」としており、パワハラの範囲や責任を極めて限定している。(2)の業務上必要と言えばパワハラでなくなる。(3)の就業環境が害されたかどうかもあいまいだ。
さらにはパワハラか否かの判断例として次の4点はパワハラではない「セーフ」としている。
①誤って物をぶっつけてしまいケガをさせる。
②業務内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者を強く注意。
③新規採用者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施。
④労働者を育成するために現状より少し高いレベルの業務を任せる。
批判が多く出ているのはこのセーフとなる事例で、これでは事実上パワハラ防止の骨が抜かれるというのが労働者側や労働弁護団の主張である。
①は暴力行為を正当化でき②は労働者を強く注意することを「問題行動」で正当化している。③は批判が多い隔離部屋を正当化するもの。④は「少し高い」と言う理由で事実上仕事の量を増やすパワハラを容認することになる。仕事を取り上げてさらしものにするパワハラもあるのだ。
つまり厚労省の素案は抽象的で幅のある解釈ができるようになっている。この点が加害者や使用者の責任逃れや弁解に悪用されるのは避けられない。平均的な労働者が業務とは関係が無いパワハラ、すなわち精神的暴力と感じたら、それはパワハラなのであり、そうした点で厚労省素案は明らかに経営側の立場からパワハラ防止法の骨を抜く狙いがあるという他ない。
問題は、管理職の権威的威圧や、権力の誇示が表れていると労働者が主観で感じたら、それはパワハラであるとすべきであり、素案はわざと抽象化して、加害者のいいわけができるようにする意図があるというべきだ。
もともと今回のパワハラ防止法は罰則が無く、企業側の努力目標であるために、抽象化して骨を抜くという狙いが明らかであり、労働組合としては厚労省素案を認めるわけにはいかない。防止効果ある内容に改めるべきである。
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