大阪十三の第七藝術劇場で、土屋トカチ監督の映画「フツーの仕事がしたい」を見てきました。
主人公の皆倉信和さん(36歳)はどこにでもいるフツーの人で、労働問題に長けた運動家ではありません。それどころか、少し頼りなくさえ見える優しげな人です。根っからの車好きで高校卒業後、運送関連の仕事を続けて、現在はセメント輸送運転手として働いています。
皆倉さんの勤務する東都運輸は、住友大阪セメントの専属輸送会社フコックスの配車指示のもとに、セメントを運ぶ一次下請け輸送会社である。東都運輸の給与体系は、運んだセメントの量に応じて給与が支払われるオール歩合制で、残業代などは全く無い。一ヶ月の労働時間が400時間を越える月が何回もあり、最長は552時間である。これは休みなしで働いても、一日の労働時間が18時間を越えてしまい、睡眠・食事などを含めて自分が使える時間が5時間しかないという過酷さである。そんなに働いても皆倉さんの給与は月平均30万円程度しかない。そのうえ有給休暇、社会保険、雇用保険の加入もない。それでも、皆倉さんは、好きな仕事だから仕方がないし、この業界ではこれがフツーだと思っていた。
けれども、会社はその歩合の割合も、赤字を理由に、一方的に切り下げようとしてくる。さらに、トラックのリース代・燃料・メンテナンス代などの経費も自己負担させられるようになる。
心身ともに限界を感じた皆倉さんは、一人でも加入できる組合があることを知りユニオン(正式名称は、「全日本建設運輸連帯労働組合」)の扉を叩く。
しかし、そこから皆倉さんの苦難が始まる。ユニオンに入った皆倉さんに対して、会社はやくざまがいの人事責任者を雇い、日々圧力をかけてくる。連日連夜家に押しかけて来てがなりたてる。その心労もあって亡くなられた皆倉さんのお母さんの葬儀にまで押しかけて、ユニオンからの脱退を迫るその異常さ。
やくざまがいの人事責任者とその手下達が、葬儀場でユニオンのメンバーと争う、カメラが揺れて、画像が乱れる。カメラを回している土屋監督自身も、蹴られ、殴られていることが伝わってくる。これは再現映像でもなければ、クローバーフィールドのような、フィクションに臨場感を与えるための手法でもない、リアルなのだ。いつしか観客である私自身も、当事者として巻き込まれているのではと思えてくるすごい映像です。
このような闘いのさなか、皆倉さんが病に倒れる。集中治療室に入らなければならないような状態になってしまう。ここに到って、ユニオンは抗議の対象を上部のフコックスや住友大阪セメントに向けて行く。フコックスの社屋の前で街宣活動をするだけでなく、住友大阪セメントの本社の前で、雨の中ユニオンメンバーが支え持つ鉄柱の間に張ったスクリーンに、この映画の一部が上映される。初めは無関心を装っていた社員たちも、葬儀場のシーンには、無視ができなくなりスクリーンに見入る。
最後にはユニオンの活動が住友大阪セメントやフコックスを動かし、ついに東都運輸は倒産する。皆倉さんたち東都運輸の従業員は新しく設立された会社に移り、フツーの労働環境で働けるようになります。
この映画は、劣悪な労働条件を当たり前であると思い込んでいる人が、自分達が置かれている状況がフツーではないことにどの様にして気づくか、そして、その後の闘いをどう展開するかのひとつのモデルを提示していると言えます。
しかし、単にそれだけではなく、形骸化した御用組合が作り出した労働運動に対するネガティブなイメージを払拭し、働く人々が(御用組合でなく)ユニオンに加入していることがフツーで、フツーに自分自身の労働環境を日々改善して行ける社会を作るための何かがここにあるように思います。
映画そのものの面白さも十二分に味わえる作品になっており、ぜひ多くの人に見て頂きたい映画です。
予告編: http://jp.youtube.com/watch?v=7ZzJi2ZencY
土屋監督のコメント: http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20080929.html
東京での劇場公開の様子: http://jp.youtube.com/watch?v=zfuewomH8M4&feature=related
今後の上映予定はブログで確認してください。: http://nomalabor.exblog.jp/
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