かつて、2年間に渡り一時期を除く全ての月で月100時間以上、長いときには月160時間以上(「一時期」でもやはり、90時間以上)の時間外等労働に従事させられた元従業員が、①時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金、②労基法114条に基づく付加金、③長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等の支払いを求めて提訴した事案で、心神疾患を発症していないにも関わらず、慰謝料支払いが認められた判決を投稿しました。
この時に長崎地裁大村支部は「疾病の発症にいたらなかったとしても、会社は安全配慮義務を怠り、心身の不調をきたす危険がある長時間労働に従事させた」「人格的利益を侵害したものといえる」と、指摘していました。昨年9月26日付の判決です。
○参考記事:
長時間労働の苦痛は、「そのもの」が人格権の侵害である
https://21c-union.com/333/ このたび6月10日に東京地裁で、アクサ生命保険が営業部長に平成27年11月~29年3月・月30~50時間の時間外労働させた事に、長時間労働を放置した安全配慮義務違反が認められ、10万円の慰謝料が認められました。
長崎地裁と同じく、「心身の不調を認める医学的な証拠はない」としたものの『結果的に具体的な疾患の発症に至らなくても不調を来す可能性があった』と判断されています。
ところで厚生労働省は、仕事が原因でうつ病などの精神疾患にかかり、昨年度に労災申請したのは2060件(前年度比240件増)だったと発表、うち女性の申請は前年度から164件増え952件と大幅に増加しており、労災認定は509件(同44件増)という事でした。申請と認定いずれも、1983年度の統計開始以降最多だという事です。
認定のうち自殺(未遂含む)は88件。昨年5月にパワーハラスメントの防止を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法が成立して認識が高まったことが申請増加の背景にあるとみられると、6月26日付の毎日新聞が報じています。
認定した原因は「嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた」といったパワハラに関するものが79件で最多。「仕事内容や量に大きな変化があった」が68件で続き、「セクハラを受けた」は42件だった。
業種別の申請は「医療・福祉」が426件で最も多く、このうち介護サービス従事者が141件に急増した、という事です。
しかし過去最多とは言え、まだまだ低い認定率だと私は思います。
一方、過重労働が原因の脳・心臓疾患の労災申請も936件。前年度より59件増え、過去2番目の多、労災認定は216件(同22件減)で、うち死亡(過労死)は86人。
職業別の認定件数では、残業の上限規制の適用を5年間猶予されている運輸業務の「自動車運転従事者」(トラックやタクシーの運転手など)が最多の68件だった、という事です。
時間外労働の上限規制が本年4月から中小企業にも適用され、本年はまず大企業にパワハラ防止法が適用される事になったものの、実態としては徹底・遵守される事は期待され難く、裁判所が歯止めをかけるべく前述のような判決も出し続けているのかと思われます。
また厚労省は6月に、パワハラ防止法の施行に合わせ、精神疾患の労災認定基準にパワハラの項目を追加し、労働者が労災認定を受けやすくなるようにし、脳・心臓疾患の認定基準も見直す方針で専門検討会で議論を始めたとも報じられています。
このように表では行政また司法が、労働者保護への前向きらしき動きをしている一方で、まだまだ現場では、長時間労働の強制また容認というパワハラと言える慣行、また次々に新世紀ユニオンに持ち込まれるあからさま、悪辣なパワハラは後を絶ちません。
まず新世紀ユニオンが、団結を強化し個々の事案で勝利を積み重ね、ゆくゆくは懲罰的慰謝料の立法あるいは制度化も通じ、社会からパワハラが撲滅される日が来る事を願ってやみません。
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