私が自主退職に追い込まれた手口を紹介させていただきます。
現在、ある研究機関に勤めていますが、知らないうちに下水道排出制限物質を漏出させてしまいました。下水道排出制限物質というのは、毒物や劇物ではないのですが環境に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、行政により排出される基準値が指定されている薬品のことです。
水質検査の結果をもとに調査委員たちが、私の使用している実験室から排出した可能性が高いと推定し、その内容の報告書を作成し、懲戒処分を検討し始めました。厳重処分を下す方針を研究所長から言い渡されていましたが、私としては減給くらいだろうと考えていました。
ところが、調査は想像以上に長引き、数ヶ月経っても何も連絡がありません。4ヶ月後、研究所長が音頭を取って行われた事情聴取は名ばかりで、「安全管理をもっと徹底していれば防げたと思わないか?」「事故予測が甘かったと思わないか?」「事前に規則やマニュアルを充分に確認したのか?」という質問ばかりが続きました。つまり、危険予測義務違反と、安全管理義務違反を自白させるための聴取でした。最後に行われた質問は、「誰に責任があると思うか?」「どのようにこの責任を取るつもりか?」というものでした。さらに委員全員の前で、研究能力が低いと罵倒されました。
その後顛末書を書かされましたが、部長の指示通りに何度も書き直させられました。
顛末書ができあがると、部長から自主退職の話が持ち出されました。部長の説明は以下のようなものでした。
今回の事件は社会的信用を失墜させ、行政からも厳しい指導を受け、この責任はきわめて大きい。さらに調査費用や改築工事費用も甚大なものになってしまったので、負担してもらう必要がある。このため、懲戒解雇の可能性が高い。懲戒解雇では当然退職金は出ないし、再就職にも不利になる。しかし、自主退職すれば反省しているとして懲戒を受けることもなく、退職金も受給できる。ただし、今回の場合は諭旨解雇に相当するので、退職金は返納してもらいそれを損害の負担に充てることになる。
そんな話があるのか、と反論したのですが、部長の説明はさらに続き、今回の責任は重大であり、研究能力に問題があると判断できるため、解雇にならなかったとしても研究職からはずすことになると言われました。また過去に上司と揉めたこともあり、異動しても今後出世はないだろうという意味の内容も言われました。そして、週末までのわずか4日の間に結論を出すように詰め寄られました。
いくつかの弁護士に相談しましたが、弁護士の説明としては、重過失とみなされれば解雇もあり得る、損害賠償請求と懲戒処分は別なので、解雇されたからといって賠償請求がなくなるわけではないし、損害賠償裁判の費用は高いから、折り合いをつけて自主退職してはどうか、というものでした。
結局観念して、一旦退職届を提出してしまいました。
その後、ユニオンを紹介してもらって相談したところ、懲戒解雇になったとしても、それは解雇権の乱用であるし、賠償責任もないと助言をされて、退職届を取り下げました。まだ正規の処分は下りていません。
実際、薬品の漏出は状況証拠しかなく本当の排出元はわからないのですが、過去に上司と揉めたことを理由にリストラを画策してきたようです。
いくつかの研究所や大学(現在は法人)の懲戒規程がインターネットで閲覧できますが、“過失”による事故・出火・爆発の場合は、戒告かせいぜい減給くらいです。今回のケースでは、情報を与えないことによって追い込むやり方でした。無知は不利になります。知ることを第一にして闘わなければなりません。
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