かつて高度成長のときに労働組合が大幅賃上げを要求しました。こうした交渉には妥協や譲歩がつきものです。今日では企業の側が大幅賃下げを提案し、交渉となることが多くなりました。
労働基準法第2条1項は「労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものである」と定めています。つまり労働条件の決定は企業が一方的に決めることができないのです。これを「労働条件対等決定の原則」といいます。
以前会社に一方的に8万円を賃下げになった労働者と、この問題をどう解決するか話し合ったことがあります。団体交渉や労働局のあっせんで解決しようとすると双方が譲歩しなければ解決できません。会社の経営状態が悪い場合は妥協も必要となります。ところがこの労働者は「自分は1万円の賃下げも認めない、嫌だ」といいます。こうなると団体交渉やあっせんでの解決はできません。戦術は裁判しかなくなります。
こうして会社側のあっせん申請を断り、実際に裁判に行くことを通告すると、会社は賃下げを白紙撤回し、今度は遠隔地配転を命令し、受け入れないと解雇すると通告して来ました。結局断ると解雇し、地位確認の裁判になりました。つまり単なる賃下げの問題であっても妥協を拒否すると原則的対立につながる場合があります。
逆に賃下げを妥協して受け入れたとしても、会社側が自己退職に追い込む狙いの減給である場合は攻撃が続く場合があります。
したがって労働条件をめぐる対立を団体交渉で解決する場合、どこまで譲歩するか、妥協のラインを決めておかなければなりません。また交渉の中で会社側の狙いを把握することが重要になります。
妥協が戦術として重要な役割を果たす場合もあります。例えばある労働者は、戦術で妥協し会社の出向を受け入れました。期限を確認していたので3年で会社に帰ることができました。その後リストラの対象となりましたが、一度会社に協力していたのが幸いして希望退職の人選を回避できました。つまり人選の合理性に反しているので会社はリストラできなかったのです。つまり妥協・譲歩が雇用を守ることになる場合があるのです。柳(やなぎ)に雪折れがないように、柔軟性が雇用を守る上で必要な場合があるということです。
逆に言えば、枝・葉の問題でも原則的対立にまで高めることができるということであり、雇用を守るうえでは、それを回避する柔軟性も必要ということを知ってほしいのです。
つまり8万円の一方的減給を交渉で4万円まで譲歩して妥協していれば、この労働者は雇用を守れたかもしれないのです。
交渉での妥結・譲歩を拒絶する傾向が強いのは、なぜか女性の方に多いのですが、妥協・譲歩が敵を挫く戦術として重要だということを確認しておく必要があります。つまり妥協は悪いことではないのです。怒りから一切の妥協を拒絶して、解雇を招く愚は回避しなければなりません。
交渉で一度譲歩しておけば、次のリストラでは同じ人を標的にはできないのです。つまり柔軟な妥協や譲歩は敗北や屈服ではないということです。
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