労働者が雇用を守り、労働条件を改善していくうえで経営者がどのような労務政策を取っているか、また取ろうとしているかを知ることは重要です。孫子も「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」と言っています。
人事労務制度の新刊や労務政策の雑誌などからポイントとなることをチェックしていきたいと思います。
まず最初に就業規則について触れます。就業規則については最近ユニオンニュースでもたびたび取り上げられています。(関連する新世紀ユニオンニュースの重要な記事
就業規則を読んだことがない人が多いこと!2010年6月12日、
労働条件の切り下げについて 2011年10月9日)
一般に企業において人事施策の検討や人事労務政策の対応においては、就業規則の規定が全てのスタートとなります。またいったん労使間でトラブルが起こり、問題が裁判になると裁判所はまずそのトラブルに関する就業規則の規定を検討します。
このように就業規則は労働契約の内容をはじめとする職場でのあらゆる労働条件を規定しているといえます。労働者も自らの労働契約の内容を規定することになるわけですから、労働契約書とともにしっかり読んで把握しておく必要があります。(前記「就業規則を読んだことがない人が多いこと!2010年6月12日」参照)
就業規則は使用者が作成するものですが(従業員10名以上の場合には必ず必要)、労働者代表の意見を聞いて労働基準監督署(以下、労基署)に届ける必要があります。しかし必要とされるのは意見を聞くことだけで労働者代表が全面的に反対意見を述べてもその就業規則の効力に影響はありません。(労働基準法(以下労基法)89、90条)
要するに極端にいえば法的には就業規則は使用者が勝手に作成することができてしまうという性質を持っていて、最近では労務管理を「適切」に行うために中堅企業はもとより、中小においても徐々に(労働者の知らない間に)細かい規定まで就業規則で決めていく傾向にあるようです。
もちろん使用者が勝手に作成できるとは「それはとんでもないことだ」ということで法律でも一定の歯止めがかけられており、そのキーワードが「合理的」な内容であることであり、労働者に「周知」されていること、ということになります(労働契約法(以下労契法)7条)。裁判などではこれらの内容が具体的に検討されることになります。
就業規則の効力について一般的に言われているのは次のような点です。
1.就業規則を下回る労働契約部分を無効として、その部分は就業規則の労働条件で規律する効力(労契法12条)
2.就業規則内容が合理的であれば労働者の知・不知を問わず、その内容が契約内容となる効力(労契法7条)
3.就業規則の不利益変更が合理的であれば反対する労働者をも拘束する効力(労契法9、10条)
これらをまとめてみると就業規則の位置づけとしては他の諸規定との関係では具体的には次のような形となります。
〔優先〕労働法令>労働協約>就業規則>個別の労働契約〔劣後〕
すなわち、優先される労働法令(労働基準法など)や労働協約に抵触する就業規則の規定は無効となり、就業規則のその規定は労働法令や労働協約の内容まで高められることになり、就業規則の規定に抵触する労働契約の内容は無効となり、就業規則で定める基準になるということになります。(労基法92、93条、労契法12条など)
しかしながら重要なことは、多くの場合、これらの規定が実際に生きてくるのは問題が裁判の場に上がった時や、団体交渉で問題にされた時などに限られてしまうという点です。個別の労働契約や労働条件の交渉の場では使用者は平気でこれらの諸規定に違反する労働条件を提示してきたり、強要したりしてくることもあることを知っておく必要があります。
それだけに労働者が自らの労働契約の内容や就業規則、労働法令の諸規定などに関心を持ち、日常的に把握していくことはとても重要なことなのです。
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