配置転換は、同じ企業内において労働者の勤務地又は職種を変更する人事異動のことで、職種の変更を「配置換え」と言い、勤務地の変更が「転勤」になります。
人事異動に関しては、会社からの命令になります。配置転換命令は会社の人事権の範囲として、その裁量が広く認められているようです。
この配置転換命令を行うには、労働契約上の根拠が必要です。一般的には就業規則や労働協約の規定が根拠とされます。しかし、根拠があったとしても法的に有効であるとは限りません。
また労働契約及び法的に問題が無くても、権利の濫用にあたる場合には無効とされます。そこで配置転換命令が有効となるために必要な要件を調べてみました…
以下の3つの要件を満たす必要がある、ということです。
1.労働協約上の根拠があり、その範囲内で配置転換命令が出されていること
配置転換に関して法律の規定はありませんが、配置転換の命令権は判例により以下の要件を満たしていれば従業員の個別同意なしに命令権を有する、とされています。
◆就業規則等に配置転換命令が可能であるとの規定があること
◆以前から頻繁に配置転換が行われていること
◆職種や勤務地を限定する合意が存在しないこと
これらの要件を満たせば、使用者は個別に従業員の同意を得ることなく勤務地・職種を決定する権限を有していることになり、原則として従業員は配置転換命令に従わなければいけません。
労働契約において、職種や勤務地が限定されている場合は、その限定された職種・勤務地の範囲が配置転換命令権の範囲になります。また労働者の個別同意があれば、それが根拠となり、問題なく配置転換できることになります。
2.法令違反等がないこと
配置転換命令は、不当労働行為(組合活動の妨害を目的とする行為)や思想信条による差別にあたる場合や性別を理由にした差別的配転などは無効となります。
これらは、労働組合法7条・労働基準法3条・男女雇用機会均等法6条の法令違反です。また就業規則や労働協約の規定に従って配転が行われていないのであれば無効となる可能性があります。
3.権利濫用(労働契約法第3条5項)でないこと
権利の濫用になるかどうかの判断基準は以下のものが上げられています。
●業務上の必要性の有無
●人選の基準についての合理性
●配置転換命令が不当な動機・目的でなされている場合
●配置転換を行うことによって労働者が受ける不利益の程度が著しい場合
●育児介護休業法26条と指針による配慮義務
●配置転換に際しての適正手続き(説明義務)・労働者の不利益を回避する配慮
これらに該当する場合には、権利の濫用として無効である、とされています。
この判断基準の各項目の内容を調べてみると…
業務上の必要性は、判例では経営上の判断として、会社の裁量を大きく認める傾向にあるようです。人選の合理性についても、人事異動が通常行われている会社であれば、広く合理性が認められる傾向にあるようです。
判例では、必ずその労働者でなければならないような必要性は求められていません。配転命令が不当な動機・目的でなされた、については会社側に批判的な態度を示す労働者への報復や退職に追い込む意図がある場合や個人的な感情による恣意的なもの等があります。
これらの行為は権利の濫用として無効になりますが、しかし問題は不当な動機・目的を立証できるか、という点にあります。配置転換命令が出されるまでの経緯に関して、不当な行為があったとする証拠をとれるかがカギとなります。
労働者が受ける不利益の程度が著しい場合については、判例では「通常甘受すべき不利益の程度」について比較的広く認める傾向にあるようです。
不利益の内容は主に以下のものがあります。
◆賃金
◆労働時間
◆勤務地
◆通勤時間
◆職種
◆同居家族の事情
これまでの裁判では、単身赴任などはやむを得ないとする厳しい判断が下されてきました。
しかし、平成14年施行の育児介護休業法26条とこれを受けた指針により、配転命令権の濫用判断に大きな影響を与えるようになりました。
勤務地の変更を伴う配転には、労働者の子の養育や家族の介護の状況に一定の配慮義務が課されたのです。これにより、単身赴任を回避する配慮や育児・介護が可能となる配慮が不十分であれば、権利の濫用として無効となります。
代表的な裁判例では、
「ネスレジャパンホールディング事件」(神戸地裁 平成17.5.9)
「ネスレ日本(配転本訴)事件」(大阪高裁 平成18.4.14)
があります。
これは、配転命令を家族の介護を理由に拒否し、配転命令の無効と賃金の支払いを求めた事件です。一審、二審とも「会社は個別同意なしに転勤を命じる権限を有することを認めたものの、本件配転命令には業務上の必要性はあるが、労働者が通常甘受すべき不利益を著しく越える程度の事情があり、配転命令は権利の濫用として無効とし賃金の支払いを命じました。」
配転に際しての会社の説明義務については、判例では「配転理由の説明や配転に伴う利害得失を労働者が判断するために必要な情報の提供をするなどの適切な手続を取ることが必要である」
となっています。
このような手続を踏まずに配転命令を行った場合には、信義則違反とされ権利の濫用として無効となる可能性があります。
判例法理をみて感じたことは、配転に関しては企業側に広い裁量権が認められているようです。
これは解雇は簡単に認めないという「解雇権濫用法理」と表裏一体の関係にあるのではないかと思います。企業側の幅広い人事権を認める代わりに、解雇は自由にはさせない…という考え方があるのではないでしょうか。
今後、高齢化社会が深刻化していくと予想される中で、育児介護休業法26条とこれを受けた指針による配慮義務は、労働者にとって企業側の権利濫用の抑制につながる重要な判断基準として大いに期待できると思われます。
最後に、配転命令で注意しなければいけないことは、配転に納得がいかず不満があり、法的にも問題がありそうだと思われても、配転に従わないでいると、業務命令違反とされ、解雇もあり得る懲戒処分を受ける可能性がある…ということです。
ですから、配転命令には従いながら、その命令の根拠や範囲や理由をしっかりと確かめ、それから法令違反や権利濫用の事実を追及していかなければいけないと思います。
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