前号、労働協約が労働者に不利益に変更された時に一般的な組合員に適用される場合と、多数組合(事業場の4分の3以上)が締結した労働協約が残りの同種の労働者に適用される場合を検討しました。(判例の事実関係などは前号を参照してください)
原則としてはいずれの効力も認めますが、組合員の場合はより拘束される度合いが強く、組合員でない場合は適用される条件がより厳格になるという結論でした。
就業規則の不利益変更の場合、裁判所は「その内容や変更の経緯などが『合理的』であるかどうかをよりどころとすべき」としてきました。その判例法理は労働契約法の条文となっています。
これは就業規則の変更などについて労働者は関与することができず、使用者が勝手に変更できることへの対応と考えられます。
一方労働協約は労働組合が使用者との間で締結するものであり、労働条件を引き下げる場合にも締結の当事者である労働組合の労働者はより責任を負うべきであるということになります。
しかしながら個々の組合員にとって、その不利益変更の労働協約が自ら主体的に取り組む中でやむを得ず締結されたのか、またはどこか知らないところでいつの間にか変更されてしまっていたのか、どちらの意識で受け入れるかは重大な問題となります。後者の場合は就業規則の不利益変更となんら変わりがないではないか、ということになってしまいます。
「石堂(規範)事件」では「同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたもの」のような場合にだけ規範的効力を否定し、基本的には組合員は受け入れるべきであるとしています。
また、協約の決定過程で普段は簡易的に物事を決めており、それが通例となっているような組合も不利益変更のような重大な変更の場合は組合規約に基づいて組合民主主義にのっとった厳格な手続きを行うべきであるとした判例(中根製作所事件)もあり、知らない間に決められたり、「殊更不利益な」労働協約が乱発されることのことのないようしばりをかけていると言えます。
もっとも、有力な学説として手続き違反の場合だけに限定せず、裁判所は不利益変更の場合には協約の内容にまでもう一歩踏み込んで検討を加えるべきであるとする説があるという点に注意しておくべきです。
一方、多数組合が不利益に変更してしまった労働協約を非組合員も受け入れなければならないのかという「高田(一般)事件」に関しては「しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると」というような場合を想定し、未組織労働者に適用することが「著しく不合理」な事情があるときは「労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことができない」としました。
当然と言えますが組合員の場合よりも、労働条件の引き下げが許される範囲をより限定するという結論になります。
その際に検討すべき具体的な要素として判例は「不利益の程度・内容」、「協約締結に至った経緯」、「当該労働者の組合員資格の有無」などを上げています。
なお、判例ではこのような結論となっていますが、拡張適用による労働条件の引き下げは一般的には否定するというのが多数説となっています。
労働協約の一般的拘束力が労働条件の安売り競争の防止という趣旨であるのに協約に基づいてその設定に関与できない未組織労働者の労働条件まで引き下げるべきではないというのが主な論拠です。労働組合としてはこの点にも留意すべきです。
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