労働相談を受けていて感じるのは企業が労働者の職業能力を高めていく、人材を育成していくという姿勢が欠如してきていることである。これは終身雇用を棄て、能力主義とリストラ経営を採用した結果であると思われるが、あまりにも経営者が目先の利益ばかり見て、中・長期的視点から経営を行えなくなっているように思う。
リストラ経営が労働者の生存競争を激化させている側面もあって経営者に仲間や上司の悪口を吹き込み、自分の競争相手、もしくは自分より能力の高い人間をリストラの標的にするように仕向ける傾向が多く出ている。この結果その会社で能力の高い人がリストラの対象となる例が意外と多いのである。
リストラになった人に、標的となった理由を尋ねると、「社長に経営について意見を言ったら睨まれた」という人や「同僚が社長と酒を呑みに行っており、その人が自分の悪口を言いふらしている」と答える人が多い。
若い人でリストラになる理由は「能力がない」というのがほとんどである。若いので経験が少ないのだから、どうしても失敗する。ところが経営者は目先の利益から即戦力を求めるので若者がリストラの対象になるのである。
現在の日本は大量失業時代であり、取り替える人材は買い手市場である。しかも派遣や契約社員やパートのように安上がりの使い捨ての労働力が簡単に雇用できる。したがって正社員から非正規への置換えが増えることになる。標的になるのは仕事で失敗したことがある人や病気で長期間休んだことがある人などや職場で孤立している人である。
一流大学を出ているのに決断力がなく、仕事ができない若者を指導・育成できないまま、周囲の声を聞いてすぐ「辞めろ」という会社が多い。有能な人材を雇用しているのに周囲がそれに気付いて排斥する例も多いのである。この時多くが「能力がない」とのレッテルが貼られるのである。
つまり「能力がない」という理由で解雇する会社は、実は経営者が人材を指導・育成していく能力がない例が多いのである。
仕事の進め方を準備段階(仕事の構想・段取りを立てる)実行段階(生じる問題点の解決・計画の修正等)決断(どのレベルで仕事を完成とするか判断する)この段階性を指導できず、有能な人材を解雇する会社が多い。このような会社は発展しないであろう。
日本企業が人材を育成することができなくなった原因はどこにあるのか?それは企業が能力主義を導入したことである。
最近10年間で日本の労働者の賃金が年収・平均で約100万円以上低下しているのは、能力を口実に賃下げして、利益を追求した結果である。その結果古参の労働者が若い労働者に職業上のノウハウ(技能・職能)を教えなくなったことが大きい、自分の持つ技能・職能を教えると、今度は自分がリストラされるのだから当然である。
こうして日本企業は重要な人材が退職すれば、企業の技能・職能レベルが低下し、やがて従業員を育てるという意識性も能力も失っていくのである。
経営者がその強欲から、目先の利益を追い求めている内に、日本企業は失ってはならない大切なものを失っているのである。リストラ経営から転換すべき時が来ている。
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