労働契約法は主に過去の裁判の判決から得られた重要な判断基準、即ち判例法理をまとめて整理し法律化したものです。この判例法理は、新たな裁判において個別労働紛争を解決するために裁判官が判断する際の重要な基準となります。この労働契約法で規定されている代表的なものを上げてみますと…
〇第16条の解雇権濫用法理(使用者が従業員を解雇するには厳しい規制があります)
〇第5条の安全配慮義務(これは使用者が機械等に安全装置を設けたり、安全教育をした、といった表面上の事だけではなく、社員の生命や身体、心身の健康などの安全が確保される様に配慮しなければいけないという事です。例えば、パワハラで精神疾患に追い込まれた場合は、損害賠償を請求するための法的根拠になります)
〇第9条の就業規則の不利益変更法理(使用者は労働者と合意せずに、労働者の労働条件を不利益に変更する事はできません)
〇第3条5項の人事権に対する制限として権利濫用法理(例えば、配置転換命令や出向命令が権利の濫用になっていないか?確かめる必要があります)
〇第19条の雇い止め法理(反復、継続して更新してきた有期労働契約の労働者の契約更新を法的権利として制定されました)
このように大変重要な事が法律化されています。
この背景には、昨今の労働者の働き方が多様化している事にあります。その雇用形態は、パートやアルバイト、契約や派遣等様々です。そしてそれに伴い労働条件も各労働者毎に決められているケースが増えてきました。その結果、労働契約をめぐるトラブルが多くなり、個別労働紛争にまで発展する事が多くなりました。
そこで労働契約をめぐる法律を規定する必要性が生じ、労働契約法という法律がまとめられたのではないかと思われます。
また多くなった個別労働紛争を迅速に処理するために、従来の民事訴訟に加え、平成18年に労働審判という短期間で個別労働紛争を解決する制度ができました。
しかしここで大きな問題となるのは、労働契約法は民法と同じで罰則がないという事です。労働基準法であれば、労働基準監督署に相談・申告すれば監督官が使用者を指導し、悪質な違反があれば罰則を科す事ができるのですが、労働契約法ではそれができないのです。
即ち、各労働者が裁判に訴えない限り使用者に責任を負わせる事ができないという事なのです。労働者が訴訟を提起するには大変なリスクがあり、ほとんどの労働者が泣き寝入りしてしまう現状があります。
それに加えて経営者は社労士等から解雇せずに標的とする従業員を追い出す手口を入れ知恵してもらい、違法すれすれの行為やハラスメントを会社ぐるみでやってきます。
しかしこの事を逆に捉えれば、紛争に巻き込まれた全ての労働者が奮起して労働審判や裁判に訴えて闘えば、労働環境はかなり改善するはずです。
パート等の収入の少ない方でも、労働審判を本人申立でできる様にユニオンが全面的にバックアップする体制をとってあげれば、費用の問題もクリアできる可能性があると思います。とにかく労働環境を改善・向上させるためには、全ての労働者が使用者の労働法違反を許してはいけないという気持ちを持つ事が大事ではないでしょうか。
最後に、改正労働契約法20条に違反するとして有期雇用の契約社員の方々が損害賠償を求めて東京地裁に提訴したそうです。この裁判では、契約社員の方が正社員と同じ仕事をしているのに、賃金や賞与等の労働条件に格差があるのは違法だとしています。
これは改正労働契約法20条による全国で初めての裁判として関心が持たれているようです。労働契約法20条は、(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)となっています。
ここで注目しなければいけない事は、契約社員と正社員の労働条件の内容です。例えば、労働時間・賃金・仕事の内容・仕事量・責任の度合い・配置転換や人事異動の有無及び範囲等ですが、これらは違って当然です。
問題はこれらの労働条件の違いのどこに不合理性があるのか、という事だと思います。もしこの裁判で原告が勝利判決を勝ち取れば、労働条件の不合理性の判断要素や線引きがわかりやすくなり、今後の有期雇用の契約社員の労働契約において、正社員との待遇格差を改善させることにつながる重要な判例となるのではないかと思います。
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