ウクライナ東部では親ロシア派とウクライナ政府の間で6月20日から停戦が成立していた。これを機にロシアのプーチン大統領はウクライナ国内へのロシア軍派遣を認めた国会の事前承認を取り消し、EUとウクライナ・ロシアの話し合い解決へと舵を切った。
ところがウクライナのポロシェンコ大統領は話し合いの最終局面で停戦を打ち切り、親ロシア派に「反テロ作戦」を開始したのである。これは明らかにアメリカの意向を受けてのことである。アメリカの狙いは欧州とロシアの関係を断ち、ウクライナを内戦の泥沼にし、プーチンを窮地に追い込むことに有る。プーチンはこのことをよく理解している。
プーチンは、ウクライナの停戦打ち切り直後の演説で、ウクライナのポロシェンコ大統領が「紛争激化に対する責任を自ら負った」「ロシアは国際法の枠内にあり続けながら、ウクライナ及び世界中にいるロシア語系市民の利益を擁護するだろう」とのべ、またアメリカに向けてプーチンは「世界の一極モデルは成立しなかった。西側が、この地球を世界の兵舎に変えようと、他の国ぐにに自分たちの原則を押し付けるのを止めるよう望む」と警告した。
これに対しアメリカ政府は、7月28日、ロシアが中距離核戦力(INF)廃棄条約に違反したとの声明を発表した。1987年に当時のソ連が署名した条約とは射程500~5500キロの核弾頭搭載可能な巡航ミサイルの保有や生産、試験を禁止する条項に違反したというものである。今の時期にこれを発表したのは、「マレーシア旅客機撃墜事件」を受けロシアに難癖を突きつけ、欧州とロシアを戦略的敵対関係に持ち込むことに狙いがある。
アメリカは今後北大西洋条約機構(NATO)としてロシアが条約を守っていないことを口実に欧州に対ロ追加制裁を迫ることで、EUがロシアを経済圏に取り込み、北米自由貿易圏よりも大きな経済的力を持つことを阻止しようとしている。
オバマは世界の紛争に介入しないと言いながら、プーチンを愚弄するかの軍事挑発は、主に欧州に矛先が向けられているのである。世界経済が微妙な時期に対ロシア制裁に踏み切れば世界の貿易が収縮に向かい、プーチンの言うように「ブーメランのように」欧米が経済的打撃を受けることになる。その打撃の規模は欧州の方が何倍も大きい。ロシアがエネルギーを欧州に供給し、欧州から機械などを購入する経済関係は、アメリカの戦略的脅威になり得るのである。
また日本がロシアとの戦略的関係を築く方向へと動きつつあることもオバマは阻止したいので、ことさらロシアとの関係をウクライナを内戦の泥沼に巻き込むことで、西側との敵対的関係に持ち込もうとしているのである。
つまりウクライナをめぐるアメリカの反プーチン的挑発は、多極化の流れの中でアメリカの覇権を維持しょうとするオバマの悪あがきと見てよいのである。
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