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日本の林業に未来はない

 第1次産業というと農林水産業であるが、この中で林業に関する話題が少ない。農業はTPP問題やFTA問題で注目され、日本における食の問題と関連して注目されている。これに先立って、マンガ『もやしもん』(石川雅之著)でも日本の農業や食糧の問題が取り上げられており、若い世代への啓発書となっている(ただし、このマンガには酒類の話題がいささか多く、若い人たちへの飲酒奨励となっている印象がある)。また、水産業についても、ホンマグロの完全人工養殖が成功したとか、ニホンウナギやクジラが獲れなくなるとか、あるいは領海問題と関連して水産資源の重要性が再認識されている。それに比べると、林業をニュースで目にする機会が少ない。

 元来“林業”とは、木材を生産する産業である。日本の家屋は独特の気候と風土との関係から木造が適していた。昨今の温暖化に伴う夏の猛暑やゲリラ豪雨が頻発するようになり、木造家屋が適しているとは言えなくなっている。当然のことであるが、木造家屋も昔ながらの建築法ではなく、最新の工法が導入されており、断熱性も良くエアコンもよく効くようになっている。しかし、国産材の自給率は年々減っており現在では約28%である。食料自給率より低い(39%)。一方、海外からの輸入が増加している。つまり、国内の林業はすでに産業として成立しておらず、生計を立てるための仕事とするには難しい状態である。

 林業が産業として成り立たなくなっている理由は色々と挙げられるだろう。林業従事者の高齢化や後継者不足、集約的な林業の未確立、建築関連企業の外国産材依存、木造住宅から鉄筋コンクリートの住宅・マンションへの移行、等々。しかし、根本的な問題は、大企業が国内産材を活用しないためであろう。林業が産業として機能するためには利潤を生みだすだけのメリットがなければ企業は手を出さない。日本の林地は急峻で林道が充分に整備されておらず、大型作業機械の導入が困難であり、たとえ可能であったとしても、海外ですでに製材された木材の方が安価で品質が安定しているのであれば、そちらに目を向けるのは当然である。現在の林業は、大手企業が見捨てた中で運営されているのである。

 では、林業を見守っているのは誰なのかというと、行政である。国あるいは各都道府県の林業課が税金を投入して荒廃しつつある林業を助けようとしている。ためしに、ネットで『林業振興』と検索すると、各都道府県の行政のサイトしか上位に来ない。あるいは、行政の手先のNPOがリストアップされるだけである。民間企業は林業を見捨てている。しかし、その行政は、ちょっと納得しがたいアイデアで林業を助けようとする。例えば、国内産木材あるいは都道府県内で生産された木材を使って家を建てると補助金が出る、というシステムがある。しかし、これは変な話である。家を建てた人以外は関係がないのに、関係ない人たちが納めた税金が投入されるのである。道路や河川の整備のようなあらゆる人に関わりがある税金の使い方なら納得がいくが、家を建てた個人のために、またその木材を供給した林業・木材関係のわずかな人たちのために税金が使われるのは、不公平であるとしか言えない。こうした行政による林業への甘やかしが一層産業としての林業を荒廃させているのである。

 林業家というよりは山持ち・地主というべき人たちは、高齢化や人手不足の理由もあり、山の手入れを怠っている人が少なくない。手入れしていない樹木はたくさんの節ができてしまう。日本では節のない木材が高く売れるが、節だらけの木材は高く売れないから、売っても儲からないのでなおさら放置状態になる。しかし、日本では土地は動かない財産であるから決して林地を手放すことはない。このため海外で実践されている集約型林業運営が困難になる。議員やお役人が林業の改善のために税金を使って海外視察に行っているが、日本は土地を集約できないため何の役にも立たない。このような海外視察は即刻やめるべきである。話がそれてしまったが、地主が金にならない山を資産として持ち続けていることが、林業振興を阻んでいるのである。挙句の果てに、台風や豪雪で被害を受ければ補償金だ賠償金だと騒ぎ立て、二束三文の価値しかないような木材の損害に、行政が金を出す。税金を納めている側から見れば、行政の林業への支出はあまりにも甘いと感じる。

 役人は木材生産としての林業に見切りをつけて、新たな大義名分を掲げている。つまり、『公益的機能』とか『環境保全』である。公益的機能とは、わかりやすく言うと「森林は保水性が高く水源となる」とか「日本の急峻な地形では森林が土砂災害を防いでいる」とか「緑豊かな森林は生物多様性の保管に役立っている」という意味であり、環境保全と組み合わさって、「地球温暖化ガスである二酸化炭素を吸収し酸素やオゾンを放出する森林は、地球環境のために大事にしましょう」という意味にもなる。また「緑豊かな森林に来ると気持ちいいでしょう」といったレクリエーション機能を強調する場合もある。環境保全には別の意味もあり、「豊かな山を造ることは、川下から海への環境を保全し、海産物の収穫や質を向上する」ことも主張する。なんとなく、風が吹いたら桶屋が儲かる的な話である。その結果として、土砂災害防止のため、崖や河川の整備に税金を投入し、結果として建設業が儲かる。また、人が来ない山奥に森林公園なるものが造られ、無駄に道幅が広げられ舗装道路が増え、トンネルや橋が造られ、やはり建設業が儲かる。林業にはほとんど関係がない。

 環境保全を謳いながら、妙な政策もある。例えば、京都の東山では景観を良くするために、樫や椎の木を切り倒し、代わりに山桜や紅葉を植えるという。京都の寺社仏閣では借景を利用して庭園が造られており、山の景観が重要となるというのが理由らしい。実際、生物多様性条約の中には『景観の多様性』という項目があり、それに基づいているように見えるが、一旦切り倒された森林からはそこに棲んでいた動物・鳥類・昆虫がいなくなり、切られなかった植物でさえ環境の変化で死滅する。そこに外部から樹木を持ち込んで植えるというのは、自然の摂理を無視した環境破壊と言える。しかも植栽する樹木が、山桜や紅葉というのは、明らかに観光を目的とした景観作りであり、山地の環境保全とは思えない。森林の管理政策は目的を見誤っている。

 よくよく考えると、森林公園を造り、そこにも桜や紅葉や、外来性の花や植物がたくさん植えられている。これは、その地域の森林や自然を理解するための公園づくりではなく、レクリエーションを目的としており、山林の保全を啓蒙する場ではなくなっている。そうした公園で自然観察会が行われても、その地域固有の自然環境ではなくどこかの植物園のような環境では土着の風土を理解することにはならないだろう。さらに、炭焼きや和紙作り体験をさせるというのは、1次産業ではなく3次産業である。山村の文化や伝統を廃れさせず、次世代へ知ってもらうためだなどと言うが、現代ではこうした物づくりで生計を立てられるわけではなく、体験サービスで稼いでいる以上、これはサービス業でしかない。もっと変なのは、森林ボランティアという林業体験である。ボランティアの言葉通り、都市に住む人たちに無償で林業体験をさせてあげるサービスである。参加費は高くないが、ボランティアに行く側が金を払うのが不思議である。林業は、本業では儲からず、3次産業で稼ぐようになっている。

 林業が1次産業でなくなりつつある一方で、林業にかかわる役人は多すぎるように感じる。Wikipediaで見ると、林野庁に関係する役人は5,273人にもなる(2010年)。これに、地方の林業課の職員を計上するとかなりの人数になる。山地の整備は重要であるが、『環境保全』を大義名分にするのであれば、環境省や環境課と合併させてもいいのではないだろうかと感じる。山地や林地の整備のための予算が、道路や橋やトンネルといったインフラ整備のために使われているのであれば、国土交通省と連携してもいいのではないかと感じる。林業が1次産業ではないことは行政が自覚しているとしか思えない。

 では、林業の復興のためにはどうすればいいだろうか。残念ながら現状では手の打ちようがない。円安で輸入材が高くなれば国産材の需要が増える、とか、中国が海外で木材を大量に買い付けて輸入材が高くなると国産材が売れる、とか、そういった話題もニュースに上がっている。しかし、こうした副次的な結果で一時的に国産材が売れたとしても根本的な解決にはならない。木材を使ってキノコを作ればいいではないかというアイデアもあるだろう。しかし、日本の建築用木材は主に針葉樹(杉・檜)なのでキノコ栽培には向いていない。しかも、キノコ産業はすでに林業を見放しており、キノコ栽培に木材ではなくコーンコブ(トウモロコシの芯を粉砕したもの)を活用しつつあり、キノコ栽培は林業ではなく農業のひとつとなっている。最近のスーパーで某JAの出荷したキノコがたくさん並んでいることを見れば、農業であるというのも間違いではない。

 ここからは暴言だと前置きして提案するが、ためしに林業に中国資本を入れてはどうかと思う。日本人の凝り固まった頭ではなく、柔軟な頭を持つ中国の資本家は、持ち前のバイタリティと多彩なアイデアで、閉塞している日本の林業の活用法を考えだすのではないだろうか。あるいは、ヨーロッパ圏の林業家でもいいだろう。ある程度の規制緩和を伴って1次産業としての活用法を考えるべきであろう。日本の森林のおよそ半分が人工林であり、本来ならば資源となるべきものである。それを使いこなすアイデアが出ないなら、多少のリスクは伴うかもしれないが、海外の知恵者を連れてくるしかない。現在のように無駄な税金投入を減らし、継続的に稼ぎ出す術を作り出せないのであれば、日本の林業に未来はない。
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コメント
補足
森林管理の現場の声が書かれているブログを紹介します.
この中の記事で,「林野庁はいらない」というタグのついた記事はとても参考になりました.

山大学 「植えない森のすすめ」
http://blog.livedoor.jp/rokuten1/
2014/09/24(水) 19:33 | URL | 投稿者です #mLrVhXOU[ 編集]
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