(1)今年度の世界情勢の特徴について
世界はドル圏・ユーロ圏・元圏等の経済的にブロック化しつつあり、アメリカの一極支配から多極化しつつあり、各地で内戦や独立騒ぎが激化し、それに伴い軍事力による国境線の変更が現実のものとなってきている。
シリアは内戦が泥沼化し、イラク北部とシリア西部に過激派の「イスラム国」が出現し、イラクにおける宗派戦争は激化している。パレスチナはイスラエルとの戦争で虐殺を受け、リビアは内戦が激化している。中東だけでなくウクライナは欧米のテコ入れによる軍事クーデターで、怒ったロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナ西部の親ロシア派が独立し、ウクライナは欧米とロシアの代理戦争に発展しつつある。
アメリカのオバマ大統領は秋の中間選挙を前に国民の支持率は低下し、国内では人種差別に反対する黒人のデモが広がった。オバマは経済を回復したいが為、混乱している中東の内戦化を促し、この地域を巨大な武器市場化しつつある。アメリカの「イスラム国」への空爆は法的根拠のない違法な攻撃であり、世界中をテロに巻き込む危険性がある。中東に必要なのは空爆ではなくイスラム教の世俗化であり、政教分離である。中東の独裁政権はイスラムの宗派争いと部族・民族争いを抑圧するために必要悪であった。そのフセインやカダフィを打倒した欧米は大きな間違いをしたのである。
アメリカはシェールガスと石油の開発でエネルギーの自給を実現した。だから中東とロシアの産油国が戦争に巻き込まれてもいいと考えている。むしろ産油国からのドルの環流の為に、これら地域を支払い能力のある武器市場にする為、意図的に空爆し、戦乱に巻き込みつつあるのだ。この結果オバマは自分のドクトリン(=非介入主義=息継ぎの和平))すらも投げ捨てつつある。
アジアにおいては、中国拡張主義が1年に50隻以上の軍艦を建造し、ヒトラー以上の大軍拡を進め、東シナ海と南シナ海で強引な砲艦外交を展開しつつある。オバマは中国走資派指導部に資金逃避の場を提供して、資金的うま味を獲得することを優先しているため、中国拡張主義に軍事的対応策を取れないでいる。
アジアにおける軍事バランスは急速に中国優位に転換しつつある。中国におけるバブル崩壊は避けられず。アジアにおいても経済危機と戦争の到来を現実のものとしている。世界は軍事力による国境線の変更の時代に入りつつある。
オバマは秋の中間選挙を勝利するため、自らのドクトリン=非介入主義の放棄で、巨大な武器市場を生み出す戦争政策は、世界市場を荒廃させ世界の貿易量を減少させ、経済恐慌を招く可能性がある。今日の世界経済の危機は強欲の資本主義が生み出したものであり、欧米もまた日本の失われた20年同じ事態に入りつつあると見てよい。経済的停滞を軍需産業によって打破しようというオバマの戦略変更は愚劣極まるというべきである。
我々は世界の各国が民族自決権を認め、相互に尊重し、内政不干渉と平和主義の原則を守るよう、労働者階級の国際責務として言論活動を引き続き堅持しなければならない。とりわけ中国の大軍事力増強による拡張主義の野心に対し、アジア各国と人民が侵略への警戒心を高め、祖国の防衛に備えるよう言論・平和活動に一層力を入れなければならない。
(2)今年度の国内情勢の特徴について 安倍政権の公共事業の肥大化と復興事業で建設業界は好況が続いている。しかしアベノミクスも消費税増税後は個人消費の減少とGDPの年率換算で7,1%の減少となった。物価が円安で上昇し、実質賃金はマイナスを続けている。日本の国民経済は依然縮小再生産のデフレの悪循環から脱していないのである。
こうした日本経済の低迷は安倍政権が進める「産業競争力会議」や「規制改革会議」や「雇用ワーキンググループ」が進めつつある解雇の金銭解決・限定正社員制度・解雇の自由化などの規制緩和による野蛮な搾取の強化政策に原因がある。安倍のミクスはグラック企業を生みだし、パワハラ社会を生みだし、新たな男女差別としての非正規化を促している。日本経済に必要なのは所得の格差拡大の中で、富の再分配を強め、社会的規制で労働者の賃金を大幅に上昇させ、個人消費を増大させることなのである。
消費税増税が日本経済の弱体化を一層強めた事は明らかである。オバマ政権は秋の中間選挙を前にTPPで譲歩する事はできないので、仕方なく軍需産業に武器市場を提供する中東の内戦化を進めている。安倍首相の集団的自衛権の容認への閣議決定は、アメリカの戦争路線へ呼応する道であり、日本をアメリカの戦争に巻き込む誤った「番犬国家路線」であり、亡国路線と断定できる。
日本経済は対米従属から来る政治上の制限で航空機産業等への産業構造の転換=高度化・精密化が遅れており、いつまでも自動車と電気の生産では韓国や中国に追い上げられ、リストラを繰り返すほかない。日本経済の再生には対米自立が必要なのである。
戦後69年もたつのにいつまでもアメリカに従属支配され、多額のアメリカ国債を買わされている限り、日本経済の再生はないことを知らなければならない。特に安全保障の上ではアジアの戦略関係が中国拡張主義に有利に変化し、覇権国のアメリカが「同盟国がらみの争いに巻き込まれたくない」(オバマ)と語っている以上、日本は自分の国を自分の力で守れるようにしなければならない。
そうした意味で安倍政権の集団的自衛権による、アメリカの番犬国家路線は危険極まりないものであり断固反対しなければならない。また「憲法9条は日本の宝」という観念的平和主義・法的観念論の過ちと危険性についても宣伝を強化しなければならない。
我々は「日本の平和と自立を求める市民連合」のブログを通じてアメリカと安倍政権の戦争と武器市場化の反動路線に一貫して反対の言論活動を展開してきた。また韓国と中国の反日運動による戦争賠償をたかる反動的民族主義の運動にも反対してきた。現代は軍事力による国境線の変更の時代であり、日本が平和主義を堅持する為の備えと、対米自立のために新世紀ユニオンは先進的労組としての言論活動を引き続き堅持しなければならない。
(3)新世紀ユニオン2014年度活動総括 本年度の新世紀ユニオンの無料労働相談は前年度の約半分近くに減少している。その原因は消費税増税前の駆け込み需要と、アベノミクスによる公共事業の増加で景気が一時的「回復基調」であったこと、さらには4月5月6月と携帯電話の通信不良で、組合員との連絡で通信環境の良い事務所外に出たため、固定電話での相談に、この間応じられない状況となったことが影響している。
しかし携帯電話の室内アンテナを設置してからは労働相談件数も増えつつある。この間の労働相談は解雇事案が急減し、パワハラと退職強要が増えている。またブラック企業がらみの相談が増えてきたのが特徴である。大阪は全国のブラック企業の約20%が集中しており、ブラック企業との闘い方が重要性を増している。
その為9月に「ブラック企業対策研究会」を開催し(1)ブラック企業が蔓延る社会的背景(2)就職時にブラック企業を見分ける方法(3)ブラック企業との闘い方の3点について討議を深めたことは我々の実践的課題を明らかにする上で大きな成果があった。
研究会での生々しい体験談を聞いて衝撃を受けた。会社に酷い目に合っているのが自分だけでない事が分かって、闘う上で励まされた。自分の職場とよく似ているマニュアルがあるのではないか、などの感想が寄せられている。
本年は解雇の相談件数が減少したが、2つのパワハラ事案で重要な経験を積むことができた。K会社のパワハラ裁判は被告側の次々出る悪辣な準備書面に対し、原告は主治医の建設的意見書とカルテが証拠となり局面を挽回した。
しかし突然裁判官が部長に交代し強引な和解提案が行われた。この裁判では「確かな野党系の労組「働く**の会」とその委員長が被告会社側に加担し、組合員の個人情報などを被告会社に渡し、「働く**の会」の委員長の裏切りの陳述書までもが提出された。
こうした中で合計約650万円(18か月分別に退職金)での和解を余儀なくされた。「この和解を拒否したら負ける」と提起されると和解せざるを得ないのである。しかしこの事案はうつ病の労災認定がされていない中での和解なので勝利的和解と言えるものである。
もう一つ重要なパワハラ事案では、E化学の労災隠しの中でのパワハラについては、Yさんが他の多くの労組に相談したが、「負けるから泣き寝入りした方がいい」と言われた事案で、Yさんは四国から新世紀ユニオンに相談に来た経緯があった。その後ユニオンの指導で会社の労災隠しを告発し、会社のパワハラと闘い、2年半のうつ病での労災認定をへて、裁判の中では会社側が労災隠しの裁判記録の開示請求を行い、その中に原告に有利な決定的な証拠が出て勝訴確実となった。その結果裁判官が早期に解決すべきとして和解提案をし、最終的に950万円(退職金込み)で勝利的和解となったものである。
パワハラ事案は証拠を準備する事が難しく、既成労組が泣き寝入りを進めるほどに闘い方が難しいのであるが、この2つの事案は数多くの教訓を含んでいる。近年解決金の相場が下がっている中での今回の二つのパワハラ事案の和解は、パワハラで苦しんでいる多くの労働者への貴重な励ましとなるものである。
大阪における労災認定率の低さはブラック企業が多い事と関連していると思われる。K会社が労災認定阻止のために数多くの書面を提出し、加入労組役員まで抱き込むやり方は我々に労災認定に向けたち密な戦略の必要性を教えている。この面での研究を今後実践しつつ深めていくべきである。
H医科大学のパワハラ雇止め事案では、高裁での反動判決があり現在最高裁に上告中である。この事案では労災が認定されているのにもかかわらず、裁判官がパワハラを否定するという反動的判決となった。日本の司法は大学が被告となる事案では、証拠の如何にかかわらず大学側を勝訴させる反動判決が多く見られる。従って大学における教授の研究妨害やパワハラが抑制されず、日本の若手研究者達を多く潰しているのである。
日本の階級社会、例えば自衛隊や大学や病院ではパワハラが蔓延り、人権抑圧や解雇権や人事権の濫用が多く見られる。パワハラが原因の自殺が多いのもこうした組織である。我々は精神的暴力も肉体的暴力と同じに刑事事件とするよう引き続き法改正を求めていかねばならない。本来楽しい場であらねばならない労働の現場で、イジメや暴力が横行する現状を改善し、真に民主的社会を目指して、我々は今後ともパワハラ事案を断固闘っていかねばならないのである。
本年はブラック企業のいくつかの闘いを経験した。おもに労働審判を本人で闘う貴重な経験を得た。こうした場合の重要点は、労働審判が本人しか出席できないため、審判委員(裁判官)や相手方弁護士に巧く誤魔化される可能性があることである。従って審判事案の経験をを重ねることで対応策のマニュアル化を心がけていかなければいけない。この点は新世紀ユニオンの今後の課題と言える。
労働相談が減少し、新入組合員が減少するとどうしても財政危機が深刻化する。本年は財政危機が深刻化すると思われたがパワハラ事案の勝利的和解で危機を脱する事ができた。しかし事案が解決すると本来は、他の組合員の闘いを支援する側に回ってほしいのであるが、実際には自分の事案が解決すると組合費を払わず脱退したり、音信不通になる例が多い。以前よりは定着率が上がったとは言え、事案が解決すると脱退するのでは労組の力(=階級の力)は大きくはならないのである。この点に日本の労働者の個人主義的弱さが存在している。団結が一時的では階級的力は増大しないのである。
組合員一人ひとりの存在がその労組の力であるのに、ユニオンを困った時の便利屋のように位置付ける事の誤りを指摘しなければならない。欧州の労働者は一つの組合に死ぬまで加入する。新世紀ユニオンもそうした労組になるために組合費はわずか収入の1%に低く抑えているのであるが、その納入率の低さは引き続き我々の克服すべき課題なのである。
ユニオンを脱退して、その後で解雇されて再び相談して来る人も増えてきた。今や日本の職場ではリストラが日常のことなのである。ユニオンは困った時の便利屋ではなく常時、労働者の闘いの砦なのである。ユニオンの、その存在価値を組合員が認識上でも、思想的にも自分のものにする事が求められている。
安倍政権の進める労働分野の規制緩和は、解雇の自由化や残業代ゼロ法案まである。従って今後も労働者にとって生きる為の闘いの時代が続くのであるから、自分たちの砦(=ユニオン)を大きく・強くしていかねばならないのである。労組は労働者を裏切ってはいけない。新世紀ユニオンではK会社のパワハラ事案で元組合員を裏切った「働く**の会」(=ある野党系労組)とその委員長を糾弾する為に、慰謝料請求の訴訟を闘うことを支援する事にした。
個人加入労組の裏切りを捨てておけばユニオンの信頼を失うことになる。すでに多くの裏切り労組の存在で日本の労働者の労組への信頼は地に堕ちている。我々は労働者大衆に信頼されるユニオンでありたい。そのために新世紀ユニオンの大会代議員などの人達など、多くの組合員の意見集約の上で、裏切り労組を訴える闘いをユニオンとして支援することにしたのである。被告労組がこの訴訟を通じて真に反省されることを希望するものである。
新世紀ユニオンの社会的役割は労働者の闘いの戦術レベルを上げること、また労働者大衆の側に立つ言論戦を闘うことである。世間ではあらゆる富を生産している労働者の立場に立った言論があまりにも少ないのである。労働者の闘い=実践を正反両面から総括し、教訓を導き出し、文章化して多くの仲間の参考にしてもらうこと、そうした役割を果たす先進労組が日本には一つぐらい必要なのである。
新世紀ユニオンの組合員は自分たちの社会的役割を、一人でも多くの労働者の中に広げて、今後も団結の輪を拡大していかねばならない。我々がこの1年の実践の中で得た貴重な教訓と課題を、来年度以降に役立て生かしていかねばならない。実践が苦難に満ちたものであればあるほど、人も組織も鍛えられ強くなるのである。
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