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労基法上の「労働時間」とは?

三菱重工業長崎造船所事件 最高裁第一小法廷 平成12年3月9日

 労働法に関する重要な判例を少しずつ紹介し、検討していきます。雇用を守り、労働運動を進めていく上では労働関係の法律や関連する判例などを学ぶことがとても重要です。

 とりわけ判例は抽象的な労働法を具体的な状況に当てはめた生きた教材であり、ある論点についてはこうなるという結論が決まっていることがよくあります。

 ある判断が確定するとその方向に基づいてその後の裁判や労働行政が進められていきます。厚労省の方針がガラッと変わったり、重要判例がそのまま法改正として確立していくこともしばしばありました。

 労働組合の活動を想定してみますと憲法で保障された労働三権、労働協約、不当労働行為(以上前号の記事も参照)などと、活動を進めていくうえで労働者にとってはかなりスペシャルなパワーが与えられています。労働者はこれを活用しない手はないわけで、これら労働組合をめぐる判例も順次取り上げていきます。

【何が問題?(事実関係のまとめ)】
(起訴に至る事実関係をとことん簡略化する)

 就業規則において、更衣所と作業場との間の相互移動、作業服や防護具の装着、資材などの受け出し、作業後の手洗い、洗面、入浴などの時間は所定労働時間外とされていたが、これらの時間は労基法上の労働時間であり、これらの時間のうち1日8時間の所定労働時間外に行った各行為は時間外労働であるとして、割増賃金を請求する訴えを起こした。
【最高裁の決まり文句(判例文のキモ)】
(裁判所判例の中から教科書、判例集などでしばしば引用される判例のキモになる部分を抜き出す)
(i)労基法32条のいう労働時間(「労基法上の労働時間」)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
(ii)労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

【問題点はどう解決された?】

 裁判所は次の8個の時間帯が具体的に労働j時間になるかどうかを検討した。
1. 始業時間前に門から更衣所等まで移動する時間
2. 更衣所等で作業服や防護具を装着し、作業場、準備体操場等まで移動する時間
3. 始業時間前に材料庫から副資材などを受け出すこと、月に数回行う散水の時間
4. 昼食時に作業場から食堂までの移動、作業服、防護具などを一部外す時間
5. 午後の始業前に食堂から作業場などへの移動、改めて作業服、防護具などを装着
6. 終業時に作業場から更衣所等への移動、作業服、防護具などの離脱する時間
7. 手洗い、洗面、洗身、入浴、その後通勤服の着用などする時間
8. 更衣所から門へ移動する時間

 これらのうちのどれが労基法上の労働時間になるかという最高裁の判断である。読者の皆さんも一度考えてみられてはいかがでしょう。

 ということで最高裁はこれらの8個の時間帯のうち、2、3、6が労働時間に該当すると判断した。それ以外の部分はそれぞれ以下の理由で労働時間とは認めなかった。

 1、8は使用者の指揮命令下にない。

 4、5は休憩時間は自由に利用できる状態であればよい。

 7は特に義務付けられておらず、通勤に著しく困難とまでは言えない。

【解説・今後の展望など】

 労働契約や就業規則では始業時間と終業時間を明確に決めておかなければならない。また就業規則にはその事業場内での実際の作業以外の準備時間などの時間は労働時間ではないとする等の規定があることも多い。

 しかしながら労基法ではどのような時間がこれに該当するかの明確な規定がないのでそれぞれの就業規則ごとに労働時間の概念が異なるということが起こってくる。

 この裁判では原告の労働者は就業規則で始業時刻前には作業服、防護具の装着を行い、作業場への移動、準備体操の場にいることを義務付けられ、終業時刻にも作業場にいることが義務付けられていた。また、始業前に副資材や消耗品の受け出しをおこなっておくことなども義務付けられていた。

 これらの作業は就業規則の上では始業時刻前、終業時刻後の行為であって労働時間でないとされていたことからこれらの時間も労基法上の労働時間であるとして所定労働時間外に行ったこれらの行為に対して割増賃金の支払いを求めたものである。

 裁判所はこの判例で就業規則や労働協約などで労働時間ではないと規定している時間も実際に使用者の指揮命令下に置かれており、義務化されているような状態であればその時間は労働時間であることを明確にした。

 実際、この判例が確定した後、就業規則を改定して更衣時間を労働時間と規定することにした事業者もあった。

 一方、学説の一部には実際の労働以外の部分については労使協定で決めることも検討課題とするなどの意見がいまだに存在する。

 昨今、ますます労働時間があいまいにされ、成果のみで評価していくとする法制が進んでいるが、今回検討したような労働時間の範囲を労使間でせめぎ合う-明日また元気に仕事に就けるよう今日の糧を確保し、休養の時間を確保する-という観点とは一線を画する乱暴な議論であるといえる。

 今一度、毎日の始業時前から終業時後までの各時間帯が賃金の支払われる時間帯になっているのかどうか検討するなかで、労働組合は作業に関連する時間帯はもれなく賃金の支払われる時間帯にするべく活動を進めることが求められる。

 (この原稿では検索等の利便のため判決の日をあえて「元号」で表示します)
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