中国政府が5月26日に2年ぶりに発表した国防白書は「近海防御と遠海防衛の融合」との表現を打ち出している。これは中国が太平洋に面していないことに立脚している。中国が「核兵器を先制使用しない」ことを打ち出している以上、核の第一撃に戦略核戦力が生き残ることが必要になる。
南シナ海と東シナ海は中国にとって核原潜の安全海域であらねばならず、同時に西太平洋とインド洋の管轄海域化の軍事拠点であらねばならない。すなわち「近海防御と遠海防衛の融合」とは南シナ海での埋め立てによる軍事基地建設、および日本の沖縄を含む南西諸島の占領が、中国海軍の戦略のカギとなるのである。
こうした軍事戦略に立って基地建設を進めているのを、アメリカ政府が主張する「平和的に紛争解決と航行の自由を保障する」ことなどできるわけがない。中国は習近平がいう「広い太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」との言葉は、言いかえれば太平洋の西半分を中国の管轄海域にするとの表明であり、そのことは西太平洋とインド洋を中国が、東太平洋と大西洋をアメリカが支配するということを意味している。
つまり大国主義に酔いしれる中国覇権主義は、こともあろうに世界の分有をアメリカに提案しているのである。そうした野望を持って南シナ海を中国の内海とする軍事的試みを平和的に解決することなどできないのである。
中国の南シナ海の支配のための埋め立てと、尖閣諸島の紛争海域化は中国の国防白書の「海上での軍事衝突に備える」ことが重要だとすることと合わせ考えると、中国はアメリカ海軍との開戦を不可避と考えている。しかしアメリカが中国との「平和的紛争解決」を口にして腰が定まっていないことが事態を深刻化させている。
アメリカはウクライナのクーデターでロシアを怒らせ、プーチンをして旧ソ連圏の地政学的利益に目覚めさせ、ロシアへの経済制裁によってロシアを中国の側に追いやった。またオバマはイランとの和解で核保有に道を開いた。イランはイスラエルの敵であるのでアメリカはいずれイランと軍事的に衝突する。安倍政権の集団的自衛権によるアメリカの戦略への協力は、海上自衛隊のホルムズ海峡への派兵を不可避としている。
アメリカの腰が定まらないのに自衛隊が対中国軍との戦争に巻き込まれる危険を指摘しなければならない。日本はロシアとの関係改善を進め、中国とロシアの関係にくさびを打つ外交的決断が必要なのである。
アメリカは中国社会帝国主義の危険性に全く気付いておらず、「新大国間係」に反対していないばかりか、容認するかのように「平和的紛争解決」を口にしている。
米中間の戦争は不可避であるが、アメリカは中国と日本を闘わせ、しかる後に「漁夫の利」を得ようとしている。つまりアメリカは頼りにならないことを心得ておくべきである。日本は軍事的防衛戦争の備えを急ぐべきである。
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